登米産「環境保全米ササニシキ」について
みなさん「ササニシキ」ってご存知ですか? 名前は知っているけど食べたことはない....という方も多いのでは。実はササニシキは、他県では「幻の米」と言われるほど希少なお米です(宮城県ではスーパーで普通に買えますが、これはすごいことなのです!)。また、産地の宮城県登米市は、全国的にも他に例がないほど大規模に「環境保全農業」に取り組んでいることで知られています。このページでは、「ササニシキ」という品種について、また、JAみやぎ登米の「環境保全米」についてご紹介します。
❖ ササニシキってどんな味? ❖
❖ JAみやぎ登米の「環境保全米」 ❖
❖ ササニシキのこれまでとこれから ❖
❖ 結局、好きがいちばん ❖
一言でいえば「やわらかく、優しい味わい」のお米です。一口食べて「うまいっ」となるようなご飯とはちょっと違って、あまり主張しない控えめな美味しさ。おなかにすーっと収まってくれるような感じです。お寿司屋さんにササニシキを使うお店が多いのは、ご飯が自己主張をせず、ネタの味を上手に引き立ててくれるからだそうです。ササニシキでおむすびをつくると、強烈な美味しさではないけれど、いくつでも食べられてしまうような、優しい味のおむすびになってくれます。長くお付き合いするほど良さのわかる、控えめで優しい性格のお米です。
「赤とんぼが飛び交う田園風景を」を合言葉に、JAみやぎ登米では、農薬と化学肥料の使用を可能な限り減らすことで環境の保全を目指す「環境保全米運動」に20年前から取り組んでいます。生産者とJAとが共同で行っている「田んぼの生き物調査」によると、JA管内の田んぼの生き物は年々増え続けており、環境に優しい米作りの成果が確実に現れています。運動を始めた2003年当初は、取り組みを理解してもらうための苦労もあったそうですが、現在では8割以上の生産者が環境保全米運動に参加しています。登米のお米は、環境に配慮し、食べる人のことを想い、大切に作られたお米なのです。
お米の主成分であるでんぷんには「アミロース」と「アミロペクチン」の二種類があります。アミロースは、千~数千個のブドウ糖が一直線につながった小さめの分子化合物であるのに対し、アミロペクチンは数万~数十万個のブドウ糖が枝分かれしながら複雑につながった巨大な分子化合物です。お米の粘り気は「アミロペクチン」が担っていて、これが多いほど粘り気のある、もっちりとした食感となり、アミロペクチン100%のお米が「もち米」になります。「だて正夢」や「ミルキークィーン」に代表される「低アミロース米」はもち米に近い品種で、アミロース含有率は5~13%程度とされています。コシヒカリは17%程度、ササニシキは20~23%程度といわれ、ササニシキはジャポニカ米の中では最もアミロースの多い品種の一つなのです。アミロースの多いお米は、あっさりとしていて粘り気が少ないのが特徴ですが、おなかで消化されやすく、またアレルギーを引き起こしにくいことが判っています。お米アレルギーの体質でも、ササニシキなら食べられるという方もおられるようです。ササニシキがおなかにすっと収まるのには、科学的な理由もあるのですね。
ササニシキは、1963年、宮城県古川農業試験場で、ハツニシキとササシグレを両親に誕生しました。コシヒカリと並ぶ二大ブランド米と評され、最盛期の1990年度には宮城県内のササニシキ作付割合は83%にのぼりました。しかし、ササニシキは冷害に弱い品種であったため、平成5年の記録的な冷害で大打撃を受けたことをきっかけに、主にひとめぼれへの品種転向が急速に進みました。その結果、ササニシキの生産量は激減し、令和2年度時点での宮城県における作付割合はわずか6%にまで落ち込んでしまいました。ほかにも、日本の食卓の洋食化が進むにつれ、旨味の強い、はっきりした味のお米が好まれるようになったこともササニシキが衰退した理由の一つとされています。お米の家系図を見ると、ひとめぼれを含め現在人気のある銘柄のほとんどが、コシヒカリの子供や孫であることがわかります。品種開発が難しいササニシキですが、栽培上の弱点を克服する努力が続けられ、2015年には、ひとめぼれとの交配品種「ささ結(ささむすび)」が誕生しています。
栽培には苦労が多く、価格が特に高いわけでもなく、流行りの味というのでもない...それでもササニシキを作り続けるのは?と考えると、おそらく一番には「ササニシキが好きだから」だと思います。ササニシキには根強いファンがいます(私もその一人です)が、最も熱心なファンは生産者さん自身でありましょう。強い意志や熱意なくして、ササニシキを作り続けるのは難しいと思います。ササニシキは、控えめで優しい味ながら、実は少し頑固な変わり者で、流行りの反対側を一人歩いているようなところがありますが、どうもササニシキ周辺の人々も、それに似た性質があるかもしれません(笑)。私も、単にササニシキの味だけでなく、周辺の人々も含めた「ササニシキワールド」に魅力を感じています。これからもササニシキについて学び、また、「ササニシキっておいしい」という声が地元宮城でもっと増えて、生産者の皆さんのエールとなれば嬉しいと思っています。